トランプ現象

この所のアメリカ大統領選挙共和党の候補者選びで、世論調査を見れば、ドナルド・トランプの支持率が50%を超えています。対する民主党の候補者は、今の所、高齢のバイデンのみ。いささか心許ない感じです。世界の全員とは言いませんが、多くの人々は内心「えー、またトランプにやらせるの」と思っているのが正直なところでしょう。私はブログで、できるだけ政治問題は避けたいのですが、今日のブログでは、トランプ現象を考えてみます。

イスラエルパレスチナの紛争問題では、トランプは明確にイスラエルを支持しています。これは人道主義的には困ったことになりそうです。どこか知らない遠い国の政治情勢なら構いませんが、アメリカの政治情勢は日本のみならず、世界中に影響します。特にいま戦争が継続しているウクライナとロシアの戦況への影響は懸念されます。とにかくトランプの外交政策は支離滅裂で、方向が定まりません。

錆びたベルト地帯と呼ばれるミシガン湖岸地域など、石炭、製鉄、自動車産業などの労働者に「過去の繁栄復活」を約束し、人気を取る手法が今の高支持率の基となっています。「America First」と叫びますが「過去の繁栄」が「復活」につながるかどうかは、やってみなければわかりません。それは産業の盛衰、時代の流れから見て、時計の針を逆に回転させようとしている試みにも思えます。

20世紀初頭から始まった「共産主義革命」は、農民のため、人民のため、労働者のためを錦の御旗にして、階級闘争として行われましたが、結局行き着く先は専制主義、独裁主義国家でした。国家のリーダーになった者に極端な権力が集中し、封建制国家の王権に取って代わっただけでした。ソヴィエト連邦、中国、北朝鮮、などなど。また、21世紀を迎え、システムとして似た様相を呈しているのが、宗教としてのイスラム主義を標榜する国々です。ドナルド・トランプもこの方式を使えば、人民の支持を得て国を支配でき、やりたい放題をやれることを察知した人物に他なりません。それらは、政治から良識を抜き去り、利害・損得を人民の前にぶら下げて、支持を獲得し、最終的には自身に権力を集中させようとする手法です。もちろん政治に「損得・利害」は付き物、完全に排除はできないものの、「良心・良識」、「全国民のため」という目的は、重要な要素で、「成熟した民主主義」とは、その方向を目指していたのではないでしょうか。20世紀を反省すれば、レーニンスターリン毛沢東金日成といった専横による悲劇が回顧されます。ヒットラーも圧倒的な人民の支持を得て、政治の世界に登場しましたが、その支持の源泉は、不況による貧困、求職難から脱出を願う「人民の損得」「領土拡大」でありました。これらの国家権力集中専横は、社会を変えるという美名のもとに、何度繰り返されてもまだ懲りないのです。

現在世界の、プーチンやシリアのアサドに対抗するため、同じムジナのトランプでやりますか ? それはずいぶん下劣な政治手法ですが。2015年頃から頭をもたげた、トランプ現象を分析すれば、そこに高邁な理論や理想は見られません。トレンドの源泉は「高学歴のインテリ達」を「アンチ・テーゼ」とする労働者達の「損得」エネルギーであります。あるいはプロ野球の応援のように、自他を「味方」と「敵」に分け、「味方」で固まり「敵」を徹底的に攻撃することになります。私は英会話が不得意で、スラング(俗語)などはわかりませんが、報道画面に通訳された字幕では、トランプは「インチキ、バイデン野郎」なんてずいぶん汚い言葉を使っているようです。そこでは政策のカケラも見当たらず、「味方」「敵」となって罵り合うスポーツの応援談義そのものです。太平洋戦争中、シンガポール陥落、南京陥落と喜んで、提灯行列。お祭り騒ぎとなって我が方の優勢を騒ぎ立てた社会の風潮でもあります。利害・損得に左右される政治から、良識で動く政治へと向かうことを希求してきた一部のひとびとにとっては、いつまでも20世紀の政治方式が変えられないまま、動いて行くことに懸念をもちつつ、諦めの気持ちを抱いているのも正直なところです。結局、トランプ現象とは、『政治を「損得・利害」で動かすかどうかの問題だ』との結論に達した次第です。