ゆっくりと流れる時間の中で、ハーブ茶を飲みながら、日陰の移ろいをながめていると、こころ癒やされて至福を感じます。この世の憂さも厄介ごともどこかへ消えて、ハーブの香りが臓腑に染み込んで行くように思えます。
私が普段飲むのは煎茶や珈琲ですが、最近ハーブ茶を数種類手に入れまして、飲んでいます。ハーブの種類ごとに「香り」や「味わい」が異なり、なかなか新鮮な体験です。日常的に日本人が、煎茶や抹茶として飲んでいる緑茶も800年以上も前に、臨済宗建仁寺の開祖、明菴栄西( みょうあん えいさい or ようさい )によって南宋から「茶の種」として持ち帰られ栽培され、喫茶の習慣として日本に根付いたものだそうです。栄西は承元5年(1211年)に「喫茶養生記」を著し、そこには抹茶の製法や身体への効用が書かれています。ですから西洋の薬草としてのハーブも、いつしか次第に日本人の生活の中に、定着して行くことになるかも知れません。日本料理食材としての野菜の95%は、過去に外国から持ち込まれ、日本で栽培されるようになったものだと言われています。香りの強いもの、薬味に限って言えば、日本原産のものは、フキ・三つ葉・ウド・山葵・明日葉・セリなど、いわゆる我が国に自生していた山菜の部類です。ネギ、生姜、茗荷、大葉紫蘇、柚子などは外国原産のものらしく、いつしか日本の食材として馴染んだものだと考えられます。外国産ハーブも100年先、200年先には、日本の薬味になってしまっているかも知れません。中国の医学・漢方では「医食同源」とか「薬膳」といった考え方が基本にあり、必ずしも薬(漢方薬)だけでなく、普段の普通の食材を選ぶことでも「身体の状態を良い方へ導く」ものとして考えられています。少し風邪気味のときは、刻んだネギや生姜を摂取すれば、身体を芯から温めて回復に向かうといった経験則のことです。今回私が数週間、ハーブ茶を飲み続けて感じることは、気持ちのバランス、精神の安定に非常にプラスになっていると言うことです。
鎌倉時代に栄西が、南宋から持ち帰った「喫茶」は、最初は多分に「薬膳」の意味合いが強かったのでしょうが、室町時代から江戸時代、現代へと時代を経て、茶道・「茶の湯」という世界に誇れる文化・美学に作り上げたのは日本の先人達でした。ハーブ茶も種類によって、漢方に似たその効能は調べることができますが、それを調べなくてもハーブ茶を飲みながら、ゆったりとした時間の流れに浸っていますと、これはこれで、また新しい文化が生まれる可能性を感じたりしています。街の商店でもネットでも、ハーブ茶は簡単に入手できます。みなさん、一度ハーブ茶を味わう時間を体験してみて下さい。人生に訪れる「至福の時間」を味わってみて下さい。気持ちの落ち着きとは、こんなに良いものかと、感じられるに違いありません。