世はいかさま

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食い物や飲み物CMで芸人、タレントが「旨い旨い」と言うのはわかるんですが、料理人や料理研究家が出てきて「旨い。本当に旨い」なんて言うCM見てると、この人たち普段からマトモなもの食ってないんじゃないのかと思ったりします。本物、技を極めた料理人などは、CMに出るわけがなく、イマイチ高評価が得られていない料理人には、CMに出ることで名前と顔が売れて、何も知らない視聴者に有名料理人だと思い込んでもらえるので、得る所が多いのでしょう。これを称してハッタリと言います。かって雑誌編集者・評論家だった山本夏彦氏は「世はいかさま」と題する写真コラム集を発表しています。マスコミに上手く乗って、顔と名前が売れれば、素人にとっては一流人。料理番組大盛況、料理人が先生先生とおだてられ、食材の選び方、調理の仕方をこと細かく説明します。しかし、本物の一流はそんな所には出てこないものです。乾燥味噌汁やパスタ、缶詰ジュースなど、たいして旨くもない食い物、飲み物をゼニもらったからと言って「旨い旨い」と良心ある人間なら言えるわけがありません。三流の野球選手がコーチや解説者になると、饒舌になって、あることないこと説明しまくるのと同じです。大体、自分が苦労してつかんだ技術はペラペラと簡単に公開しないものですし、またその微妙な機微は、言葉で説明できるものでもない。王貞治氏や長嶋茂雄氏から打撃の神髄を聞いて納得したひとなどいないでしょう。王氏はバットの代わりに真剣を振ってコツをつかんだとか、長嶋氏の説明は「バック・スウィングの時、グリップエンドをここに上げれば打てるんだ」とか、川上哲治氏に至っては「球が止まって見えた」といつた説明で、凡人に理解できるシロモノではありません。禅問答のような世界です。テレビの料理番組で、出演料理人からこと細かくされる説明は、それで素人は感心し、番組が成り立つモノですから、余り罪はなくそれはそれで構いません。しかし本物はこんなモンじゃない、隠れた名人、職人が多くいることを知ってほしいと思います。私はなぜこんな憎まれ口を言うか。それは本物の職人仕事がわからない人が多すぎることへの警鐘です。マスコミ、特にテレビで放映されると、そのことはほぼ無条件に真実だとされてしまいます。STAP細胞を作り出したと科学誌Natureに発表し、割烹着で実験に取り組む姿を公開し、大発明だと世間に持ち上げられたあと、その後の検証で論文にいくつもゴマカシが見つかり、論文の手順で細胞の再現が試みられたが、再現されず大恥をかいた女性。考古学の分野で、次々に旧石器時代の埋蔵物を発掘して「神の手」を持った発掘者なんて言われたひと。それによって旧石器時代の歴史事実、研究に大影響を及ぼしたものの、前もって埋蔵物を埋めているところを見つかり、ウソがバレた。このウソに影響された中・高校の歴史教科書を書き直す必要が出てきて、大学入試試験問題もひっくり返さなければならなくなりました。日本の考古学学会もメンツがつぶれた捏造事件。難聴なのに交響曲を書いたとして、現代のヴェートーベンと賞賛されたひと。私も音楽好きなので、友人からその交響曲第一番「HIROSHIMA」のCDが送られてきました。聴いてみたものの、眠い。つまり退屈で退屈で早く終わらないかと、我慢をしながら聴いたおぼえがあります。誰だと名前を公表することは避けますが、現代日本の作曲者としてトップ・クラスに評価されているひとが「これだけ立派な交響曲を書いたのだから、特別に大きな賞を作って表彰してあげる必要がある」とテレビ・カメラに向かって発言していました。その後の顛末は、実は音楽大学の講師に多額の報酬を支払って作曲してもらい、自作として発表したこと。ゴースト・ライターだったその講師は「あのひと、普通に会話できて耳は聴こえてるヨ。譜面を書く能力はもっていない」と打ち明けました。難聴の障害者手帳もだまし持っていたようです。こうして数年づつの時間の割合で、虚偽捏造欺きが世間を賑わします。ある意味で冗談の一環として笑い飛ばすのなら、結構楽しいのですが、それが真実として社会問題になってしまうとそうも言っていられません。これらのウソは発覚して幕切れとなって良かったものの、発覚しないままのものもあるでしよう。その一歩手前のバレない栄光の専門家や権威は、相当たくさんいるはずです。こうなると山本夏彦氏のように「世はいかさま」と達観して平気でいるのもひとつの生き方ですが・・・。ただ、私の住んでいる京都という町には、過去から今日まで隠れた芸術家、工芸家が連綿と世の本流から外れ隠れていて、その作品にふれると雷に打たれたほどの衝撃をうけます。とくに名もない作家、職人の素晴らしい仕事は、華やかに名をなした「大先生」の仕事と比較すれば、問題にならないほど輝いています。

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マスコミ、特にテレビで有名になった「大先生」の仕事が本物なのかどうか、深く検証する文化をこの国に根付かせることが必要だと思っています。割烹着で実験した女性の実験も再現できなければ意味はなく、何度も発掘できたことよりも、その埋蔵物が本物かどうか検証する必要があり、難聴のひとが書いた交響曲も、聴いて感動できるかどうか、眠ければ眠い音楽です。ことの本質よりも、付随するエピソードを好む日本人の性癖が本質を見えなくしています。大切なことは、世間の評価は信用しない。本物を見極める自分の感性を持つことに尽きます。「秘すれば花」むしろ光が当たっていない場所に本物がある可能性の方が高いと言えるかも知れません。料理人が「旨い、本当に旨い」と言う食い物のCMを見るにつけ、「世はいかさま」と理解した上で、だまされずに隠れた本物の仕事を見直していただきたく、今回のブログになりました。