小説「きのね」を読んで

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南座顔見せ興業    南座楽屋口   阿国歌舞伎発祥地の碑

 

宮尾登美子の小説「きのね」を読みました。久しぶりに面白く、いっきに読んで、少し感動しました。11代市川團十郎とその妻がモデルで「きのね」とは、幕が開くとき、チョーンとかん高く鳴る拍子木の音です。「柝の音」と書きます。よくマァこれだけ調べて、女の艱難辛苦を表現できたものだと思います。調べてみれば宮尾登美子なる女性も、女衒( ゼゲン )とその愛人・女義太夫とのあいだに産まれた子供とのこと、境遇からなるほどと合点できました。團十郎名跡ながら、代々いろいろあり、私たちの知っている12代も華やかな大スターながら、重い荷物を背負って66歳で亡くなりました。その子供、海老蔵もご存じのとおりです。ある神官の方から「人気の集まる家は、その裏腹にかならずなにか不幸を抱えているものだ」と教えられたことがあります。14代守田勘彌玉三郎を養子にするとき、「人気ってのは怖いヨ」とさとしたと聞きおよびます。宮尾登美子にしろ、11代團十郎の妻にしろ、生まれ落ちた境遇に必死であらがい、登りつめた人生は、やはり感動を呼ぶものです。南座の「阿国歌舞伎発祥の地」の碑の横に楽屋口があり、ここをいままでどれほどの名役者、また中堅、端役、馬の足、道具方、床山衣装、囃子鳴り物が出入りしたかと思うと、感慨深くたちつくしておりました。もうすぐ顔見せも千秋楽。だれもがそれぞれの荷物をかかえて、新しい歳を迎えます。